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原告 準備書面(2)

平成21年(ワ)第2957号 損害賠償請求事件 
原 告 伊藤啓子 外3名
被 告 社会福祉法人名北福祉会

原告準備書面(2)

                  

2010(平成22)年 4月22日

名古屋地方裁判所 民事第6部 合議係 御中

                

原告ら訴訟代理人 弁護士 岩月浩二
                    同    弁護士 中谷雄二

本書面は、被告の責任の重大性について述べるものである。

第1 本件施設について
1 本件施設の配置等

 ショートステイWITH(以下、本件施設という)の建物は、木造二階建の一般民家を借り受けて施設の用に供しているものである(被告は、同建物において、日中、共同作業所WITHを運営している)。
 同建物の2階がショートステイに用いられており、同建物2階は北側から6畳間、8畳間、8畳間の3室が配置されている。6畳間の北側には東方向から西方向に向けて浴室と脱衣・洗面所、トイレがあり、6畳間との間はアコーディオンカーテンが設置されている(甲20、甲35)。
2 階段室への扉
 6畳間の北西側には階段室へ通じる内開きの扉があり、その北側に並んでトイレの扉がある。扉には楕円形の取っ手があり、内側から開閉可能な状態であった(以上、甲20検証調書添付図面、甲35実況見分調書6~11頁)。
 トイレの扉と階段室の扉は隣接しているため、トイレの扉と誤って、階段室の扉を開く危険性が高い構造になっている。本件事故当時、扉の色が同じであったためより混同を生じやすい状態にあった(甲18・3枚目4行目、甲35写真6、7)。
3 階段
 1階へ通じる階段は14段であり、幅90㎝、高さ22㎝、奥行き24㎝であり、角度45度の急勾配である(甲35・15頁)。
 階段室には踊り場はなく、斜めの階段2段を経て1階に通じている。足を踏み外せば、一気に1階まで転落するおそれのある危険性が極めて高い構造になっている。
 階段の危険性は一見するだけで明らかである(甲35写真11参照)。

第2 被告の過失責任の重大性
1 階段の顕著な危険性

 前記のとおり本件階段は、公共性のある建物には不適当な急勾配であり、転落すれば、生命・身体に対する重大な被害が発生する可能性があることは容易に予見することができるものである。したがって、被告には万一にも転落事故が生じないように万全の注意を尽くして結果を回避すべき厳格な義務がある。
2 階段室への扉
 自閉症で重度知的障害のある亡晃平のショートステイを受け入れるに当たっては、亡晃平が一人で階段室に出て転落するおそれがあることが明らかであるから、内側から扉に施錠し、または扉を開けることができないように障害物を置くなど、亡晃平単独の意思で扉が開かないようにする措置を講じるべき注意義務があった。にも拘わらず、被告は、内側から容易に開閉のできる状態のままに放置して結果回避義務を怠った。
 本件指定短期入所事業利用契約を締結するに際して、原告啓子は、亡晃平の状態を説明して全介助を求めるとともに、出入り口があれば勝手に出て行ってしまうので施錠してほしいと求めており、同原告の求めがあったにも拘わらず、開閉が自由な状態にしていた過失は極めて重い。
 被告は、扉の施錠は、部屋の出入り口ではなく、外部につながる事業所出入り口の施錠はする旨の確認をしたと主張しているが、原告啓子は不測の動きをする亡晃平の状態を説明した上、日常生活すべについて付き添って危険から守る全介助を求め、施錠を求めているのであり、事業所出入り口の施錠のみを求めたものではない。
 また、被告は亡晃平が多動の傾向があることを認識していた(甲32・7行目)。
 本件施設の階段は一般人であっても転落の危険のある急勾配な階段であるから、亡晃平が自由に階段室への扉を開閉することができないようにすべきであることは容易に思い至るものであり、原告啓子の求めを踏まえた措置をとらなかった被告の責任は重大である。
3 消灯
 本件事故当時、階段は消灯されていた(甲18・2枚目、甲26等)。
 本件階段は、障害者に限らず、日中であっても足を踏み外すおそれのある危険なものであり、夜間、消灯された状態になれば、足下の確認は不可能となり、転落の危険性は著しく増大する。
 階段の危険性を多少なりとも軽減するためには夜間就寝中も点灯すべき注意義務があったことは明らかであるが、被告はこの義務を怠った。
4 対応の緩慢さ
 被告が愛知県障害福祉課に提出した事故報告書(甲26)によれば、担当職員2名は、午前5時20分頃、亡晃平が立ち上がるのを確認しており、「Aが『トイレか?』と声をかけ、Fに『晃平さんのトイレをお願い』と話しかけ、自分もトイレに向かおうとする。この時、Fは、晃平さんが扉の前に立っているのを確認し、『だめだよ』と声をかけ、追いかけようとしているため、Aの声は聞き取れていない」とされている。
 事故当日のショートステイ報告書(甲24)によれば、亡晃平は、立ち上がった後、「起きて少し部屋の中をうろうろし」たとされており、職員が対応すべき時間的余裕は十分にあった。
 甲25号証2枚目の図によれば、職員1名(A)が2階中央の8畳間で亡晃平に寄り添って就寝し、階段室の扉がある北側6畳間でもう一人の職員(F)が就寝していた。
 寄り添って就寝していたAは直ちに亡晃平に付き添うことは容易であり、また、階段への扉がある6畳間に就寝していたFは直ちに制止行動に出ることが容易であった。
 前記のとおり亡晃平が就寝していた居室は、階段から転落する危険と隣り合わせの状況にあり、亡晃平に多動の傾向があることを認識していたのであるから、亡晃平が起き上がったときには、直ちに制止行動をとるべき義務があったことは明らかであるが、被告はこの注意義務を怠った。
5 責任分担の不明確さ
 被告は亡晃平に多動の傾向があることを認識して、亡晃平の介護は職員二人の体制で当たっていた(甲32)。
 夜間も亡晃平が起きあがる気配がすれば、直ちに対応するために職員間で役割を決めておくべき義務があったにも拘わらず、これを怠った(甲31)。
6 アコーディオンカーテン
 本件事故当時、トイレ側のアコーディオンカーテンは閉められており(甲35・11頁、甲26・5枚目)、亡晃平には扉は一つしか認識できない状態にあった。
 仮に知的障害がなかったとしても、不慣れな利用者が、トイレの扉と階段室の扉を誤る可能性は著しく高い状態にあった。階段室の扉をトイレの扉と誤って開ける可能性を軽減するためには、アコーディオンカーテンを開けておくべきであったにも拘わらず、被告は、アコーディオンカーテンを開放していなかった。

第3 被告の安全意識の希薄さ
1 階段室扉の鍵について

 被告は、階段室の扉とトイレの扉を間違える可能性があること、亡晃平が自由に階段室の扉を開けることができたことが事故原因であるとして(甲26・4枚目)、事故再発防止策として階段室の扉に鍵を設置し、職員のみが開閉できるような仕組みにすることし、愛知県障害福祉課に防止策として報告している(甲26・4枚目)。また、原告に対する事故再発防止に向けての報告書(甲18・2枚目)においても、「階段へ続く扉の施錠を必ずします」としている。
 にも拘わらず、被告は、本件事故後、扉の取っ手を付け替えたものの、施錠しても部屋の内側から開閉ができる仕組みの取っ手であり、簡易な施錠も施されていない(甲20・3枚目)。本件事故当時と同様、利用者(障害者)が、単独で開閉することのできる状態となっており、危険性は何ら改善されていない。
 このことは、被告が本件事故を経てもなお、施設の安全性を確保すべき意識を欠いていることを示している。
2 事故直後の対応
 被告の原告に対する事故状況報告書(甲13の2)によれば、転落直後の被告の対応は次のとおりである(甲28同旨)。
「電気をつけて駆け寄り、意識を確認したところ意識がなく、失禁してしまっていたため、雑巾で床をふき、すぐに母に電話連絡し現状を報告し、119番通報する旨を伝えました」
 被告(職員)は、真っ先に救急車を呼ぶのではなく、失禁により汚れた床を拭くことを最優先している。
 雑巾は1階の水回り周辺にあったものと考えられるところから、事故直後にわざわざ雑巾を取りに行って床を拭いた上、原告啓子に連絡を取り、その後に消防に通報している。
 一連の行動は、亡晃平の容態が一刻を争う重篤なものであるとの認識を欠いていることを示しており、被告が階段事故の危険性を軽視していたことを物語っている。
3 結論
 本件施設の階段は、急勾配であり、転落事故の可能性は容易に予見できた。、また、転落事故が発生すれば、直ちに生命・身体に重大な被害が生じることも容易に予見できた。
 被告の一連の過失や事故後の対応は、被告が階段の危険性を著しく軽視していたことを示している。本件事故は被告の安全意識の低さによって、もたらされたものといわざるを得ず、被告の責任は重大である。

(伏字、改行、太字装飾追加、他原文ママ)