×

[PR]この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。

原告 準備書面(3)


平成21年(ワ)第2957号 損害賠償請求事件
原 告 伊 藤 啓 子
被 告 社会福祉法人名北福祉会

原告準備書面(3)

2010年7月30日

名古屋地方裁判所民事第6部合議係 御中

原告ら訴訟代理人弁護士 岩  月  浩  二
同       弁護士 中  谷  雄  二

本準備書面は、甲39号証の鑑定意見書に基づき、亡晃平の障害の特徴とその発 達の過程及び就労可能性について主張する。

1 亡晃平の障害の内容と特徴(甲39)
(1)亡晃平は、出生時、体重3487gであり、普通分娩で障害などの指摘はな く、歩行は1歳頃、1歳過ぎに「でんしゃ」「まま」などの言葉が出はじめるが、 語数は少なかった。1歳半健診では特別な指摘を受けなかった。1歳半過ぎには「ぎゅうにゅう ちょうだい」「でんしゃいっちゃった」などの言葉も出ていたが、2歳半過ぎに突然言葉を話さなくなった。
(2)3歳頃に保健所に相談し、児童相談所で発達相談を受け、4歳3ヶ月時から 就学まで知的障害児通園施設ちよだ学園に通園した。この頃に医師より自閉症障害 の診断を受ける。児童相談所での心理判定では、療育手帳(知的障害の手帳)等級 2度の判定を受ける。
 児童相談所の判定結果の推移は以下のとおりである。
 5歳3ヶ月 津守・稲毛式乳幼児精神発達検査
 発達年齢(DA)1歳4ヶ月(運動2歳6ヶ月、探索操作1歳6ヶ月、社会1歳3ヶ月、生活習慣1歳6ヶ月、理解言語11ヶ月)発達指数DQ25
 7歳3ヶ月 津守・稲毛式乳幼児精神発達検査
 発達年齢(DA)1歳8ヶ月(運動3歳、探索操作1歳6ヶ月、社会1歳6ヶ月、生活習慣3歳、理解言語1歳3ヶ月)発達指数DQ24
 10歳2ヶ月 津守・稲毛式乳幼児精神発達検査
 発達年齢(DA)1歳8ヶ月(運動3歳6ヶ月、探索操作1歳6ヶ月、社会1歳9ヶ月、生活習慣3歳、理解言語1歳3ヶ月)発達指数DQ16
 ビネー式の知能検査も一部施行可能になっており、型はめ、積木積み、紐通しは成功している(言語指示課題は未達成)。
 13歳2ヶ月 津守・稲毛式乳幼児精神発達検査
 発達年齢(DA)1歳8ヶ月(運動3歳6ヶ月、探索操作1歳6ヶ月、社会1歳9ヶ月、生活習慣2歳6ヶ月、理解言語1歳)発達指数DQ13
 発達検査の結果は発達全般の遅れが見られ、特に運動機能、生活習慣が相対的 に高く、言語理解に遅れが指摘されている(甲41)
(3)亡晃平は療育手帳等級1度、重度精神遅滞と判定されており、自閉症をとも なった重度精神遅滞であった(甲39)。自閉症の特徴については、甲39号証に 詳細に紹介されている。
 自閉症には特徴的な三つの行動特徴がある。
 それは、①対 人的相互交渉における質的な障害(人との関係で、視線を合わせなかったり、視線 を適切に使用しなかったり、表情や身振りなどの表現が乏しかったり、他人との感 情の共有が乏しかったりすること)、
 ②意思伝達の質的障害(言葉がなかったり、 その発達が遅れること、言葉が発達してきても、オーム返しであったり、人とのや りとりができず、一方的であったりすること、また、やりとり遊びや見立て遊びが なかなか出てこなかったりして、言葉を支えるイメージの発達に遅れがあること)、
 ③行動、興味、活動が狭く反復的で常同的なパターン(関心が狭く、パターン的で、 特殊なものに強い愛着を示したり、常同的反復的な奇異な行動を示したりするなど の症状など)である。
 この3つの特徴の他に、特異的な感覚のアンバランスや認知 のアンバランスなどをしばしば伴う。これらの特徴は年齢とともに改善の傾向を示 すが、ほぼ全生涯にわたって続くとされている。幼児期ではこの3つの必須症状以 外に、多動、音などへの感覚の異常、極端な偏食、睡眠障害などが指摘されている。 亡晃平にもこれらの特徴が見られた。
(4) 現在では、自閉症に対して受容的精神療法は自閉症の本質的治療になりえな いとされ、自閉症への働きかけの基本は、子どもに積極的に働きかける治療教育と 薬物療法へと変化してきている。
 また、治療教育は、異常行動の改善や適応行動の 獲得のみならず、自閉症児の気持ちや行動を理解したうえで、行動をわかりやすく 教えていき、認知と情緒の発達を促す方向に進んできている。
 また、家庭環境、学 校環境、地域や職場などの環境を適切化し、本人が適応的な行動を学習することに より、積極的な社会参加が追求されている。
 また、薬物療法により自閉症を治癒さ せることはできないが、適切な薬物の使用により症状を緩和し、環境調整の組み合 わせにより、相当程度の効果が期待できるとされている。
 この点、亡晃平に対する家庭環境、学校環境及び薬物療法はそれぞれ可能な 限り適切に調整されていた。その結果、以下のように自閉症をともなった重度 精神遅滞を指摘されているにもかかわらず、相当な発達を示していることがわ かる。
以下、養護学校の指導要録及び連絡帳などから発達の過程や就労へつながる 発達の状況を述べる。

2 亡晃平の発達の過程
(1) 甲39号証がまとめているように、亡晃平は、平成10年4月、就学になり、 守山養護学校小学部に入学した。小1では、担任教諭との相性もよく順調に成長し た。小2で、一時的に学校へ行くのを嫌がることがあったが、児相の援助もあり、 学校に通うことが可能になった(甲40号証18頁)。
 小5になって多動が目立つようになった。奇声が多くなり、興奮してじっと していられない状態で、愛知県コロニー中央病院精神科を受診(H医師)し た。
(2)平成16年4月、守山養護学校中学部進学。
 中学校3年間の亡晃平の指導要録から見られる変化は以下のとおりである(甲 40号証5頁)。
ア 国語
 1年 日常生活の指示の学習では「座って」「立って」など指示に従った行動が多くなってきた。
 2年 自分の名前を呼ばれると、まだ「はい」と返事することはできませんが、挙手することができた。
 3年 日常生活の指示の学習では「ボールをとって」「ボールを入れて」の二語の指示で動くことができた。
 この欄では明らかに年を経るに従って、遅くはあっても亡晃平が成長してい る様子がわかる。1語の指示に従うことができ、名前を呼ばれて挙手できるように なり、2語の指示で行動できるようになっている。
イ 社会
 1年 横断歩道の渡り方の学習では、教師の支援を受けて右左の確認をした後、渡ることができた。
 2年 学校周辺のビデオや、災害のビデオに興味を示し、関心をもって見ることができた。
 3年 自動販売機の使い方の学習では飲み物を買い取り出すことができた。
 ここでも教師の支援を受けて校外で横断歩道を渡ることができた段階から、身 の回りのビデオ映像に関心を持ち、自販機から飲み物を買って取り出すことができ るまでに至っている。日常の生活課題ができるようになったことがわかる。
ウ 数学
 1年 形をはめこむ学習では、支援を受けながら、丸い玉を丸の枠にはめこむことができた。
 2年 10個の大きさの違うコップを大きい順に高く積み上げることができた。
 3年 5までの数を体感する学習では5つの鈴を1つ1つ容器の中へ教師の数唱とともに入れることができた。
 数的な理解がどこまで進んだかはこの記載からは不明であるが、同じ形の枠に 同じ形をはめ込むこと、コップを大きさの順に高く積み上げること、教師の数の読 み上げに合わせて物を入れるなど、作業につながるような課題を年々できるように なってきたことがわかる。
エ 理科
 1年 春の植物に関心をもつ学習では運動場で春の植物を採取することができた。
 2年 たくさんのどんぐりを手にとり、いろいろな形のどんぐりに興味をもつことができた。
 3年 畑を耕す学習では、野菜の苗を植える畑を、移植ごてを使って教師とともに耕すことができた。
 植物の採取から畑を耕すことまで、実際に農作業に直結するような作業へと進 んでいる。
オ 音楽
 1年 打楽器を打つ学習ではばちをつかって、音のでる部分を打つことができた。
 2年 キーボードのいろいろな音階の音に興味をもち、自由に演奏することができた。
 3年 絵描き歌を楽しむ学習では、教師の支援を受けて曲にあわせて絵描き歌を楽しむことができた。
 自閉症の場合に、音に対する過敏症があることもあるが、年齢が進むとともに 楽器や歌などを曲に合わせて楽しむまでに至っている。
カ 美術
 1年 花を作る学習では、色和紙を細かくちぎり両面テープの部分にはることができた。
 2年 浮遊ボトルに入れる飾りを一つずつつかみ、自分でペットボトルにいれることができた。
 3年 こいのぼりを作る学習では、尾の部分の画用紙を両手で上手に破ることができた。
 手足の操作が不器用であることもあるが、亡晃平の場合、上記中学校の記録を 見ると、和紙を細かくちぎり両面テープに貼るとか、浮遊ボトルに入れる飾りを一 つずつつかんで自分で入れるとか、部分的な画用紙をその形に合わせて破るなど、 作業目的との関係で手先の器用さを獲得してきていることがわかる。
キ 保健体育
 1年 深いプールを歩く学習では、水の抵抗を体感しながら、一歩一歩確実に歩くことができた。
 2年 リレーにおいて、最後まで一人でバトンをしっかり持ち、次の走者にバトンを渡すことができた。
 3年 ボール運動を楽しむ学習では、ボールを持ってバスケットゴールに進み自分から入れることができた。
 運動機能が相対的に発達していると評価されているように、水の中での歩行や リレーのバトン渡し、バスケットボールをゴールに入れることなど手足の連携と全 体の動きを把握して自らの動きを合わせるなど運動機能については、発達が目立つ。
ク 職業・家庭
 1年 焼きそばをつくる学習では、焼きそばに入れるキャベツ細かく手でちぎることができた。
 2年 ポップコーン作りでは、火にかけたなべを教師と一緒にゆすることができた。
 3年 たこ焼きをつくる学習では、使い終わったボウルや皿を水受けボウルの中で洗うことができた。
 直接手でちぎるという作業から道具を教師と一緒に使うこと、そして、使い終 わった道具を自分で洗うことまで成長している。
ケ その他
 1年 作業学習では、授業のあいさつや出席確認をみんなと同じように座って取り組むことができた。
 2年 はしの袋づめの作業では、袋の口をはしが入りやすいように補助すると、丁寧にはしを入れることができた。3学期は作業に集中して取り組む姿も見られた。
 3年 作業学習では、はじまりの道具運びなどは、声をかければ何回も取り組むことができた。
 最初は作業に取り組む姿勢ができるようになった段階からはしを袋詰めする 作業も補助するとでき、何回も声かけにより繰り返し取り組めるようになっている。
コ 特別活動
 1年 学部集会や全校集会では、友達が整列している所に、教師と一緒に座っていることができた。
 2年 教室の戸を閉める係として、体育室や、運動場に移動するときには、教師の指示で戸を閉めることができた。
 3年 健康観察簿を持って、保健室へ届けることがスムーズにできた。また、下校予定のプリントも他のクラスへ持って行き、教師に渡すことができた。
 集団の中で他の生徒と一緒に整列し、座っていたり、係の活動を教師の指示に よってできるようになっている。他のクラスへの届け物ができるなど、教師の指示 に従い、一人でできることの範囲が広がっていることがわかる。
サ 自立活動
 1年 感覚遊びをへらすために、学習の時間、遊びの時間と区別させるよう取り組んだが、まだ不充分である。
 2年 帰りの会の始まる前には、周りの様子から自分で教室に戻り、自分の席につくことができるようになってきた。
 3年 言葉掛けによりハンカチを出し、両手をふくことができるようになってきた。
 中1の時には、学習の時間、遊びの時間の区別が不十分であったが、2年には 周囲の様子を見て帰りの会に自分で教室に戻り、自分の席につくことができるよう になり、教師が言葉をかけるだけでハンカチで両手をふくことができるようになっ ている。
(3)中学時代の発達のまとめ
 以上、具体的に中学時代をとおして見たときに亡晃平は様々な点で発達して きていることがわかる。自ら言葉を発することはできないものの、一人で周囲の状 況と関係なく遊んでいたものが、周囲の状況を察して自ら席にもどったり、教師の 指示により取り組める作業や運動が飛躍的に広がっていることがわかる。将来の就 労につながるであろう集団での協調性や作業指示に従うこと、同じ作業を繰り返す こと、自分一人で道具の片付けをすることなどができるようになり、手の操作の精 緻さを要求される作業についてもできるようになってきていたことがわかる。作業 能力の向上はこのような点からもはっきりと見て取ることができる。
 中学部2年からは薬物療法もはじまり、自傷行為がおさまり落ち着きがでて きたと評価されている(甲第40号証19頁)
(4)高等部時代の発達の状況
 亡晃平は、平成19年4月に、守山養護学校高等部に進学した。
 高等部では1年の途中で死亡したため、中学時代のように高等部全体を通し てその発達の過程をたどることのできる記録は存在しない。
 そこで、家庭と学校との連絡帳から作業等についてどの程度、亡晃平が発達し てきたのか特徴的な記載を拾ってみた(甲第41号証)。
①平成19年5月24日
 今日の作業では、あみ機を145回まわしました。長い間、イスに座ってい ることができるようになってきました。
②同年7月2日
 今日、社会の授業でサークルKの場所を地図上で示すことができました。
③同年9月14日
 今日の作業は、”なんと”一人で編み機を回し、一つのナイロンたわしを完 成させました。初めての事です!すごいですね。
④同年10月4日
 今日の作業ではあみ機を手で何度も回したわしを二つ作れたそうです。
⑤同年10月18日
 今日はナイロンタワシを2個作りました。半日で二つ作るのは初めてで、大 変おちついてやっていました。
 中等部時代の教師の指示に従い、作業につながる課題を一つ一つ達成していっ たことが、高等部になり、具体的にあみ機の操作によりナイロンタワシを一人で完 成させるところまで至っている。しかも、その後は、作業速度が上がってきている こともわかる。これらの状況は、亡晃平が具体的に作業課題との関係で遅くとも着 実に発達をしていた姿を示しているものである。

以上



(伏字、改行、太字装飾追加、他原文ママ)